パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの戦闘員はイスラエル南部に侵入して多数の市民を殺害した。
イスラエルの非政府組織(NGO)「ザカ」のボランティアは、軍や警察と協力して犠牲者の遺体を捜索、収容している。メンバーの1人が産経新聞の取材に応じ、ハマス戦闘員の残酷な襲撃の実態を語った。
取材に応じたのはイスラエル中部モディーンのシムハ・ガイニマンさん(46)。6人1組で活動するザカのチームリーダーで、普段は救急車の運転手をしている。
ザカは殺人事件や交通事故、テロで死者が出た場合、捜査終了後に警察や軍から遺体を引き取り、ユダヤ教の教えに基づいて埋葬を執り行うプロジェクトを進めている。 ハマスがイスラエルに侵入して市民を襲撃した7日の午後6時。軍から「南部の兵舎が連絡しても応答しない」との連絡が入り、ザカの司令部がガイニマンさんのチームに南部スデロトに行くよう命じた。
■荷台が70遺体で満杯に 中部からトラックで南下する途中、高速道路には銃撃された約50体の遺体があった。司令部からは「停車するな。戦闘員が残っている。狙撃されるぞ」と指示が飛んだ。
到着したスデロトではハマス戦闘員が警察署を占拠し、イスラエル軍と銃撃戦になっていた。チームはその脇で約20体の遺体を集め、高速道路に引き返してさらに遺体を収容した。
「トラックの荷台が70体の遺体で満杯になった」(ガイニマンさん)。
遺体を入れた袋に「軍人」「民間人」「戦闘員」と書き分け、近くの軍施設で引き渡した。戦闘員は頭に鉢巻きをしてベストを着ており、すぐに見分けがついた。
■逃げないよう足を撃った ガイニマンさんのチームは8日、ガザとの境界近くの野外コンサートの襲撃現場に行き、18~35歳ぐらいの多数の遺体を見つけた。
ガイニマンさんは「多くは頭と足を撃たれていた。逃げないように最初は足を撃ったのだろう」という。 シェルターに隠れたが発見され、手投げ弾を投げ込まれてバラバラになった遺体もあった。
軍と手分けし、すべての体の部位を集めたりして30体ほどの遺体を収集した。 9日は南部ベエリの住宅街を回って犠牲者を探した。親を取り囲むように子供たちが座り、それぞれが何発も撃たれている家族がいた。
施錠され、放火された家の中に入ると、肩を組み合ったまま黒焦げになった数人の遺体があり、1体ずつ引き離して収容した。
■性暴行の疑いも 一部で報道された「首を切られた子供の遺体」はあったか聞くと、ガイニマンさんは言葉に詰まってうつむき、目に涙をためてうなずいた。現場の状況から性暴行もあったと考えているという。
20年前から救急車の運転手として働くガイニマンさんは、2000年に始まった第2次インティファーダ(反イスラエル闘争)で、多数のユダヤ人が乗ったバスが爆破された事件でも現場に行った。
しかし、「今回は過去の事態をはるかに超えている。手には遺体収集時の感触が残ったままだ。がれきの下にもまだ遺体があり、事態は収束していない」と話す。
ガイニマンさんは、イスラエル軍はガザで地上作戦を行うとの見通しがあるとし、「いずれガザにも行ってイスラエル兵を捜索、収容することになるだろう」と話した。
ガイニマンさんのチームの1人、エリ・ヘイゼンさん(56)が送ってくれた数十枚の写真には、射殺されたイスラエル軍兵士や焼け焦げた死体などが映っていた。ザカでは600人のボランティアが活動している。
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