こんにちはカリアゲです。
『九条の大罪』作者・真鍋昌平
九条は「法律と道徳は分けて考えている。道徳上許しがたいことでも、依頼者を擁護するのが弁護士の使命だ」と語る
一人の弁護士の姿を通し、人間の欲望、暗部を浮き彫りにする『九条(くじょう)の大罪』(小学館・週刊ビッグコミックスピリッツで連載中)の第3巻が刊行された。作者の真鍋昌平さん(50)は、「人間が抱える葛藤、心の揺れ動きを描きたかった」と語る。
<私は依頼人を貴賤(きせん)や善悪で選別しない>
主人公の弁護士、九条間人(たいざ)は、依頼を選ばず、依頼人の利益のために行動する。時には罪を犯した「半グレ」たちの弁護もこなし、有利な判決を導くために動く。飲酒運転による死亡事故の執行猶予を勝ち取ったり、恐喝で捕まったヤクザが釈放されるよう黙秘を指示したり。そのため悪評も立ち、世間からは「悪徳弁護士」と呼ばれるが、本人は意に介さない。
「九条はフラットな人。一番困っているときに、誰も助けてくれない状況って最悪だと思うんです。誰に対しても平等な人を描きたかった」
「事件の背景に何があったのかを誰も知ろうとしない。それをわかりやすく描いたらいいのではと思って」と語る真鍋さん
今作を着想したのは、5年ほど前に遡る。代表作の『闇金ウシジマくん』を連載していたが、闇金業者という犯罪者の視点で描く話に限界を感じていた。
「突き詰めて描けば描くほど読者が離れる」
罪を犯した人に取材をすると、よく話に出てくるのが弁護士だった。「人々から信頼されている弁護士の話を聞いてみたい」と取材を始め、全国の約50人の弁護士から話を聞いた。
そこで心が動かされたのが、ヤクザや半グレ相手などのきわどい案件を担当する弁護士の話だった。
「そんな依頼を請け負う弁護士ってなかなかいない。ウシジマくんの世界観と地続きで、自分が描けると思った。法廷で謎解き、みたいな弁護士漫画は自分がやっても面白いものは作れない」
九条の過去や人物像と、ある半グレのリーダーが暗躍する姿を軸に、悲惨さと緊張感を併せ持つ物語を生み出した。昨年から連載を始め、作品タイトルには「九条が抱えていく大きな罪」との意味を込めた。
「九条の大罪」第3巻
ただ、悲惨さばかりを描くのではない。半グレが運営する悪徳介護施設に入所していた男性が亡くなり、その娘が遺産を取り戻そうとするエピソードでは、九条に優しく言葉をかけられた娘が、父親に対してずっと言えなかった感謝の言葉を一気に吐露する。
「人に言えない悩みをわかってほしい気持ちって誰にもあると思う。そういう心の解放の場面を入れているので、ただ暗い話を描いているつもりはないんです」
綿密な取材を行い、物語を作り出すのが自身のスタイルだ。今作でも、誰かに紹介してもらったり、自ら街で声をかけたりして、すでに100人以上に取材している。
取材をする理由は「人と会って話をすることが面白いから」。自ら命を絶った人の家を訪ね、自身も身も心も削りながら描いたエピソードもある。
「今の時代、変化がものすごく早く、不安な人も多い。見逃されている感情っていっぱいあると思うので、どんどん拾っていこうと思っている」
悲惨な状況を生々しく描き、気軽に読める内容ではないが、映画監督の西川美和さんら著名人も帯にメッセージを寄せるなど反響を呼び、累計部数は40万部を突破。
「自分が面白いと思うものを貫いたうえで、いかに読者に受け入れてもらえるか。今までにない物語を作っていきたい」
コメントまとめ
「九条の大罪」は、死や虐待などのショッキングな描写がありつつも、強烈に描かれる人々の感情とあいって、独特の空気を見せる作品です。
マンガなので「フィクション」と分かっているのに、生々しく、読者の心をざわつかせます。「闇金ウシジマくん」と同じような世界観のように見えて、弁護士側の視点が新鮮ですね。
特にスマホのわき見運転の交通事故の話で、被害者が弁護士をつけなかったために不利になる話は、読んでいて悲しいものが……。