こんにちはカリアゲです。
工藤会壊滅作戦は11日で着手から7年を迎える。会トップの死刑判決につながった異例の捜査の舞台裏を、当時の捜査幹部への取材などから探った。
「見届け役」
判決文をむさぼるように読む天野和生(67)の目に留まったのは、この言葉だった。
2013年の暮れ、福岡地検小倉支部長だった天野は、特定危険指定暴力団工藤会のトップ立件に向けた準備のさなかだった。判決文は、1998年に元漁協組合長の男性を射殺したとして、殺人罪で実刑が確定した工藤会系組長2人のものだった。
このうち1人が事件の「見届け役」と認定されていた。殺人事件の現場を、誰のために見届けるのか。天野は、当時傘下組織トップだった工藤会総裁の被告野村悟(74)に報告するためだと考えた。
天野はかつて勤務した大阪地検公判部で、ボディーガードの拳銃所持で銃刀法違反(共同所持)の罪に問われた特定抗争指定暴力団山口組元最高幹部の公判を担当したことがあった。共謀を示す直接的な証拠はなかったが、最終的に大阪地裁で有罪判決が出された(その後、被告の死亡で公訴棄却)。
元組合長射殺事件では、ナンバー2で会長の被告田上不美夫(65)が2002年に「指示役」として逮捕されたが、不起訴処分となっている。トップの立件を目指す上では「終わった事件」と見られていた。
だが、14年1月、大阪高裁で暴力団捜査に「追い風」となる判決が言い渡される。
神戸市で山口組系組員らが起こした殺人事件で、組長が下部組織を含む複数の組員らに指示したことを示す直接的な証拠はなかったが、裁判長は「複数の組員らが組織的に犯行を準備、実行した場合は、組長の指揮命令に基づいて行われたと推認される」と、組長に実刑判決を言い渡した。
「これを当てはめれば、トップまでいける」
天野は司法判断の変化を感じ、そう確信した。この約8カ月後、福岡県警が「工藤会壊滅作戦」に着手し、元組合長への殺人容疑で野村と田上を逮捕した。
当時、福岡県警北九州地区暴力団犯罪捜査課長の尾上芳信(60)も、1998年に起きた元漁協組合長射殺事件の公判などの記録を読み込み、トップ立件に手応えを感じていた。
上司から「血を流すポジションを用意した」と言われて、2013年春に福岡地検小倉支部長に就任した天野和生(67)。尾上は元々殺人や強盗など強行犯の捜査が専門だったが、警察の威信をかけた工藤会捜査の責任者に抜てきされた。
2人は意気投合した。だが当時、県警と検察の関係はぎくしゃくしていた。県警の捜査員は「逮捕しても検察が起訴してくれない」と不満を募らせ、検察側には「県警が暴力団に関する情報を出さない」という不信感があった。
尾上と天野は、県警と地検小倉支部の合同捜査会議を毎月開催し、意思疎通を図った。工藤会の勢力をそぐため、小さな事件でも積極的に立件することを確認した。
この方針が、思わぬ成果につながった。
被告野村悟(74)の「金庫番」とみられていた工藤会幹部が14年4月、警察官から職務質問を受けた際に激高し、ズボンと下着を脱いで下半身を露出させた。幹部は、この件で逮捕されるかもしれないと警戒し、組織の資金管理に関する「引き継ぎメモ」を作成したとされる。
県警は後に、幹部を県迷惑防止条例(卑わいな行為)違反容疑で逮捕し、別事件の家宅捜索で、このメモも押収した。工藤会の上納金を巡り、野村が所得税法違反罪に問われた事件=実刑判決が確定=での有力な証拠となった。
従来の暴力団捜査は内部情報を入手するため、組員との付き合いを一定程度容認し、暴力団側が反発するような捜査は避けることもあった。
だが尾上は容疑が固まった段階で先行して家宅捜索し、資料を押収するよう命じた。組員が抵抗する中、「隠れ事務所」とみられるマンション一室を捜索、金庫をバールでこじ開けたこともあった。中には資金の流れなど組織運営の実態を示す資料が入っていた。捜査員から「お宝が出ました」と報告があった。
県警は14年9月、実行犯に元組合長射殺を指示したとして、殺人容疑で野村と被告田上不美夫(65)を逮捕し、壊滅作戦に着手した。福岡地検は看護師刺傷、歯科医師刺傷、元県警警部銃撃を含む市民襲撃4事件で、2人を起訴した。
野村の指示を示す直接的な証拠がない中、検察側は、押収資料などを基に、工藤会が厳格な上意下達の組織で「野村の指示や了承なしに組員が重大事件を起こすことはあり得ない」と主張。
福岡地裁は8月24日の判決で検察側の主張を認め、野村に死刑、田上に無期懲役を言い渡した。
刑事部長を最後に今月7日で県警を退職した尾上は、こう語った。「今回の判決が、被害者や遺族の悔しい思いに対して、少しでも報いになればと思う」
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